第6回湖族の郷アートプロジェクト

 私の地元、堅田。琵琶湖の南と北を分ける最狭部に位置し、長らく湖上交通の要衝の地として栄えてきたこのまちは、歴史学者網野善彦が「湖の領主」と位置付けたように、中世には水運や漁業に携わり、富を築いた堅田衆が運営する自治都市であり、琵琶湖の水を引き込んだ水路が四方をめぐる環濠都市であった。ちなみに、堅田衆とは、殿原衆(地侍)と全人衆(商工業者・百姓)の連合のことであるが、宗教としては、殿原衆は禅宗を、全人衆は真宗を信仰していた。そして、応仁2(1468)年に起きた山門による堅田の大責は、その結束力を示す象徴的な事件としてとらえられている。

 さて目を現代に転じると、京阪神といった大都市圏の郊外に当る堅田は、大津市内の中でもとりわけ人口流入が著しい。国道161号線に沿ってロードサイド店舗が集積する典型的な都市郊外の様相を呈している。その一方で、堅田漁港がある本堅田地区を中心に、琵琶湖の風光のみならず、社寺や庭園など港町、自治都市としての堅田の歴史や伝統を今に伝える景観も併存している。近年では、住民を中心に構成される「湖族の郷実行委員会」が、こうした多様な歴史文化資源を活用したまちづくりを展開している。このまちで地元の芸術大学成安造形大学の学生、卒業生らが中心になって開かれているイベントがある。今回で6回目を迎える湖族の郷アートプロジェクトがそれである。

 今年は11月19日、20日、26日、27日に開催。県下最大級のアートイベントである。会場で配布されていたパンフレットによると、空き家、神社、お寺、商店、教会、琵琶湖の浜辺など、堅田のあらゆる場所が作品の展示会場となり、まち全体がアートの空間になる。プロジェクトのテーマは「人と人をHEARTでつなぐ」。芸術にあまり興味のない人たちと芸術をつなぎ、堅田地域の人たちと来場者をこのイベントでつなぐことを目標にしているという。

 私自身は地元ということもあり、2、3年前からイベントについては存じ上げていたが、今年の夏ごろ、ひょんなことからプロジェクト代表者の南條さんに出会ったことで、今回は交流・芸術空間の創造への大きな期待と予感で溢れている。惜しくも、初日の19日は小雨が降る中であったが、午後のひと時、拠点の古民家Café&Art ZEROZEROを訪ね、しじみハンバーグをいただきながら、南條さんらと少しお話した。南條さんらのグループ以外にも、彼らの活動がひとつの機縁となって、いろんな人たちが集まりつつあるようだった。そのこともまた、このイベントの貴重な成果であろう。

 私は、主に観光文化の研究をしているが、口先だけで理想論を唱えている方が実際に活動するよりも簡単である。そういう意味で実践家の友人たちを尊敬し、少なからぬ学びを得ている。書物のなかの言葉や理論だけで本当の学問は生まれない。理念なき現場主義に陥ることなく、しかし行動や体験を大切に、新しい時代の思想を育てていく他ないのだから…。そう自戒の念を込めつつ、週末は地元のアートイベントを見に行って学ぼうと思う。